【ネタバレ】上流思考 #22

タイトル:上流思考

著 者 :ダン・ヒース

出版社 :ダイヤモンド社

発行日 :2021年12月14日

「上流」活動とは

川の上流から次々とおぼれた子どもたちが流れてきたとしたら、誰もがおそらく反射的に川に飛び込んで救助に向かうであろう。
下流でのその行動がなければ、子どもたちの命は失われていたかもしれない。

しかし、子どもたちが次々とおぼれてしまうことに対して取り得る対策は他にもある。

なぜおぼれてしまうのか?
どうすればおぼれずにすむのか?
川の上流では何が起こっているのか?

「問題をそもそも起こさせない」という解決方法もあるはずだ。

上流介入の成功例

オンライン旅行会社のエクスペディア社では、「同社で予約を入れた顧客の100人につき58人が、予約後に問い合わせの電話をかけてきている」という問題に直面していた。

一方で、同社のコールセンターは、効率化と顧客満足度の向上を使命としていた。
従って、「10分の通話を2分に短縮するにはどうしたらいいか」といつも考えていた。

しかし、本当に考えるべきは「なぜこんなに多くの顧客が電話をかけてくるのか」である。
そこで、同社では顧客が電話をかけてきた主な理由をリストアップしたうえで、さまざまな対策を講じた。

それにより、いまでは、2000万回の通話そのものがすっかりなくなった。
同社に問い合わせの電話をかける顧客の割合は、2012年の58%から、約15%にまで激減した。

つまり、問題解決には、苦情に事後的に対処する方法(=下流活動)だけではなく、顧客が電話をかける必要をなくすという方法(=上流活動)もあるということを認識すべきなのである。

上流介入が難しい理由

システムの欠陥
エクスペディアの経営陣は、問い合わせの件数の多さには気づいていた。
しかし、会社という組織がこの気づきを無視するようにできていた
なぜなら、各部門が、それぞれ異なる目的をもっていたためである。

営業部門
・・・顧客をウェブサイトに呼び込む
製品部門
・・・顧客が予約を完了できるように誘導する
技術部門
・・・ウェブサイトを円滑に機能させる
顧客対応部門
・・・問い合わせに迅速に対応する

そして、そこには「顧客が問い合わせをせずにすむようにする」ことを目指す部門は一つもなかった。
むしろ、各部門の目的は電話を増やす結果になっていた。

問題は、各部門の目的という観点から見れば、どの部門もきちんと成果を上げていたこと。
製品部門はより多くの取引を成約させ、顧客対応部門は問い合わせに迅速に対応していた。

これこそが、「システム」の欠陥である。
問題が起こるべくして起こるような仕組みであった。

効果が分かりにくい
警官Aは勤務時間の半分を使って、事故が多発する交差点に立っている。
彼が存在感を放っているおかげで、ドライバーはいつもより注意を払い、事故を避けることができているかもしれない。

一方、警官Bは、交差点の陰に隠れて、交通違反車を取り締まっている。

この場合、公共の安全への貢献度は警官Aの方が高いのに、ほめられるのは警官Bである。
なぜなら、努力の成果を証明する違反切符をたくさん持っているのは警官Bだからである。

つまり、下流活動の成果は目出つし、測定しやすいものである。
一方で、上流活動の成果はわかりにくいし、測定しにくいものである。

警官Aのおかげで「事故が起こらなかった」ことをどうやって証明するのか?
これこそが、未然防止より事後対応が優先されがちな理由の1つである。

上流へ向かう

ノルウェーの医療支出が上流(=健康を保つための支出)に偏っている一方で、アメリカの医療は下流(=病気の治療にかける支出)に偏っている。
その結果、乳児死亡率、平均寿命の長さ、ストレスの少なさ、幸福度などでノルウェーがアメリカを圧倒している。

ただし、上流の解決策がつねに正しいわけではない
ましてや、下流活動をやめるべきでもない

アメリカは、この下流に偏った投資のおかげで医療大国となった。
アメリカの医療機関は、他国に比べてがんや心臓病などの重病の医療に優れている。

つまり、問題は、「解決策は幅広くあるのに、ほとんどの場合「事後対応」という、ごく狭い範囲にしか目が向けられていない」ということである。

おぼれている子どもを救助する人は必要である。
しかし、そもそもなぜ救助が必要なのかを考えること、救助の必要がなくなるよう努めることの方がより重要なのである。

事後対応から未然防止へ、後手に回るより先手を打つべきである。

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