タイトル:地球の未来のため僕が決断したこと
著 者 :ビル・ゲイツ
出版社 :早川書房
発行日 :2021年8月20日
世界が目指すべき姿
世界では(当時)およそ10億人が電気を安定して利用できない環境にいる。
だれもが健康で生産的に暮らすためには、電気は非常に重要なものである。
従って、貧困者がよりよい生活を送れるように、世界はさらにエネルギーを供給する必要がある。
世界全体ではエネルギーによって提供されるものやサービスがもっとたくさん利用されて然るべきである。
しかしそのエネルギーは、温室効果ガスをまったく排出しないかたちで供給されなければならない。
そして、すべての国に化石燃料ではなくそちらを選んでもらえるようにするため、クリーンなエネルギーを非常に安い値段で提供する必要がある。
五つの問い
気候変動への有望なアイデアを見分けるためには、効果として見こまれる数字が大きいのか小さいのか、費用がどれだけ高いのかが分からないと判断できない。
そのためには、気候変動という事象の全体像を把握するように努めることが大切になる。
1.510億トンのうちのどれだけなのか
温室効果ガスの量を挙げている何かを読んだ際には、それが地球上の年間排出量510億トンの何パーセントになるのかを計算する。
ヨーロッパでの排出権取引によって航空セクターのカーボン・フットプリントが年間1700億トンも減ったという。
しかし、実は地球上の年間排出量から見た割合は0.03%に過ぎない。
何かの取組が有効かどうかを見極めるためには、数字だけで考えるのではなく、全体における割合を考えることが欠かせない。
2.セメントはどうするつもりか
温暖化対策では、電気や自動車などが注目されがちだが、これらは出発点に過ぎない。
輸送手段全体からの温室効果ガスの排出のうち、乗用車が占めるのは半分未満である。
そして、地球上の温室効果ガスの全排出量のうち、輸送手段が占めるのは16パーセントに過ぎない。
気候変動への対策を検討する際には、温室効果ガスを排出する人間の活動をすべて考慮に入れる必要がある。
電気と自動車のほかにも多くのことを包括的に考えなければならない。
3.どれだけの電力なのか
どれだけの電力なのかをイメージするためには、電力についての最低限の知識が必要になる。
ビル・ゲイツが活用しているおおまかな比較は以下のとおり。
<どれだけの電力が必要か>
世界 ・・・ 5000ギガワット
アメリカ ・・・ 1000ギガワット
中規模都市 ・・・ 1ギガワット
小さな町 ・・・ 1メガワット
アメリカの一般家庭 ・・・ 1キロワット
4.どれだけの空間が必要か
電力を生み出すためには空間が必要になる。
一方で、地球上で利用できる土地や水には限りがある。
太陽光の電力密度(定の広さで、さまざまな発電手段からどれだけの電力を得られるか)は、風力よりもかなり高い。
つまり、太陽光ではなく風力を使いたければ、(ほかの条件がすべて同じ場合)はるかに広い土地が必要になる。
決して風力が悪くて、太陽光がいいという話ではない。
どれだけの空間が必要になるのかも考慮に入れて議論すべきということである。
5.費用はいくらかかるのか
これだけ気候変動についての意識が高まりつつあるのに、なぜ世界は大量の温室効果ガスを排出し続けるのか。
それは、利用可能なエネルギー技術のなかで現在のものが概して最も安いからである。
炭素ゼロのソリューションのほとんどは、それに対応する化石燃料の手段より高くつく。
従って、炭素を排出する「汚い」技術から、排出ゼロの技術にエネルギー経済を移行させるには、コストがかかることになる。
一方で、トレードオフ(環境に配慮するために、どれだけの費用を負担する意思があるか)は、グリーン・プレミアム(炭素ゼロの技術に追加でかかる費用)を負担できるアメリカやヨーロッパの人たちだけの問題ではない。
インド、中国、ナイジェリア、メキシコはプレミアムを負担できないという状況も考えられる。
従って、「だれもが脱炭素を実現できるくらいにプレミアムを低く抑える必要がある」ということを念頭に置かなければならない。
私たちにできること
私たちにできる最も効果的なことは、自分自身の炭素排出を減らすことではない。
みんなが炭素ゼロの代替物を望んでいて、それにお金を払う意思があるというシグナルを市場に送ること。
普通よりも高いお金を出して電気自動車などを買うときには、「これには市場がある」と伝えていることになる。